
HTML殺人事件
05
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ルネは、ふと本棚に目をやり、空いたスペースにHeaven Hillが置いてあったのを思い出した。バーボンで、たしかケンタッキー産だったと思う。
グラスに注ぎ、口腔に移したものを一気に喉に流し込む。食道と胃が熱を発して、それが体に拡がって行く。
何だか落ち着かない気分だった。胸の中に空虚が生じたような感覚にとらわれる。
口に含んだチーズを時々、舌で玩びながら、グラスを3杯ほど空にしたので、ルネは、とりあえず朝まで眠ることにした。
朝のメールチェックをした。
ここ数日、ウイルスメールが多く、1日に10通を超える。
ルネは、掲示板への書き込みの時、メールアドレスは書き込まず、サイトのURLだけを書くことにしている。ウイルスに感染したPCが閲覧していたページの中にルネのメルアドがあって、それがまだキャッシュに残っていた場合、ウイルスがそれを見つけてメールを送ってくるからだ。
しかし、それでもウイルスメールはどこかで彼のアドレスを見つけてやって来る。メルアド業者が以前、収集したデータの中に、それがあって、買った人のPCが感染したのだろうか。
コミュニティー系サイトの管理人だと、1日に100通以上のウイルスメールが来ていると聞いた。
マルチと違法コピーソフトと出会い系サイトらしい数通のスパムメールは、長ったらしいSubujectの始めの部分を見ただけで削除する。
BBSのレポートメールがあるが、ビジターに、昨夜、ルネがレスしたものだ。
数通のメルマガなど、残った未読のメールの中に希羅々からのものがあった。
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送信者 希羅々
宛先 ルネ様
件名 感想お礼
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はじめまして。
ぽえ村での感想、ありがとうございました。
ルネさんのおっしゃる通り、
ネットには天使も悪魔もいることを
思い知らされる今日この頃です。
あ、こんなこと、書いても
ルネさんには何の事かわかりませんね。
ごく私的な事ですので。
ルネさんのサイトも拝見させていただきました。
音楽なども流れていて、
独特の雰囲気がありますね。
オリジナルなのですか?
ところで、
ちょっと伺いたいことがあるのですが、
ルネさんのところには
変なメールが来ていませんか?
蝙蝠さんのことを
いろいろ尋ねてるんですが、
私の他にも数人の詩人さんたちに
同じようなメールが来ているようです。
私は蝙蝠さんについては
ぽえ村で作品を拝見してるくらいで、
別に交流はないんです。
1度感想をいただいたんで、
蝙蝠さんの投稿を見かけた時に
レスをしましたが。
それくらいです。
こんな質問をして
気分を悪くされたら、ごめんなさい。
知らない人から、そんなメールが来て、
何だか不気味な感じがしたので。
少し怖いんです。
私の病気のせいかもしれませんけど。
ということで、
もし、よろしければ、
今後ともよろしくお願い致します。
希羅々
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問題のメールが具体的にどういうものなのか、よくつかめないが、直接、脅迫をされているような内容ではないらしかった。
ただ、何かが彼女を不安な気持ちにさせているらしい。
メールやBBSへ書き込まれた、ちょっとした言葉にでも過剰反応する人たちがいる。ルネの知っている限りでも、たいしたことのない脅迫メールや書き込みがあったため、サイトを閉鎖したりネットから姿を消したしまった例が幾つかあった。
彼女はどうなのだろう?
妄想的な過剰反応のようにも思えるし、そうでないような気もする。
文章を書いたり、絵を描いたり、音楽をやっていたり、そういったクリエイティブな人間の中にはシックスセンスのような超常的能力をもっている場合もあるのは、たぶん確かなことだろう。もちろん、それは必ずしも才能のレベルと比例するものではないが。
彼女が、そちらの範疇に入るのか…。まだ、ルネにはなんとも言えなかった。
ルネは、とりあえずレスを書いた。
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送信者 Rene
宛先 希羅々
件名 Re: 感想お礼
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希羅々さま
ルネです。
はじめまして。
メールありがとうございます。
あの感想は、もしかして
お気に障ったんじゃないかと
あとで心配してました。
それほどのことは、なかったようで
良かったです。
ああそうそう、
音楽は僕が作ったものですよ。
それから、
僕も蝙蝠さんて方とは、
ぜんぜん、お付き合いがないです。
だから、何だかよくわかりませんが、
希羅々さんのところへ来ているメールが、
もし、脅迫とか名誉毀損とか…
法律に触れるものでしたら、
しかるべきところへ訴えた方がいいと思いますが。
強制捜査でアクセスログとか調べれば、
誰がやっているのか、つきとめられるはずです。
相手がよほどのハッカーでなければですが、
そんな人は、レベルの低い脅しなどやらないでしょうしね。
もし、僕に出来る事があれば協力しますので、
何かあったら、お知らせください。
こちらこそ、よろしくお願いします。
ルネ
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ルネは周囲より、やや遅れて、それを知った。
年が明けて数日してからのことだ。
ルネはPoem Villege、通称『ぽえ村』のメンバーとのコミュニケーションに、それほど熱心ではない。たまに、投稿したり感想を書き込んだりするだけで、メーリングリストにも参加していなかった。
だが、後で聞いた話しでは、その間、メンバーの間でMLやメッセなど、水面下の動きが活発だったらしい。
その日、投稿板を覗くと『空に行った人へ』という作品があった。アサリという常連の作者だけれど、ルネと交流はない。作者のコメント欄には1行だけの簡単なコメントが書かれている。
先日、ネットでお付き合いしていた方が亡くなったようです。
投稿されて2時間ほどしか経っていなかったが、感想欄には、もう40を超えるレスがついている。「悲しいね」とか「ご冥福をお祈りします」といった感じで、具体的なことに触れているものはないが、共通の友人らしい人に不幸があったことは想像された。
ルネは詩の末尾にある作者のサイトへのリンクをクリックした。トップからひとつ入ったフレームページのメニューで、BBSを探し、行ってみる。
そこで、すぐ目に入ったのは、管理人のこんな書き込みだった。
昨年末12月31日。
ぽえ村にも、よく投稿されていた希羅々さんが亡くなられました。
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