HTML殺人事件

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 リロードすると、その後は、またジャンクな書き込みが続く。興味深い書き込みをしていた連中は、姿を消したようだった。ちょうどTVの人気番組や、食事や風呂などでPCを離れる時間だ。これから夜遊びに出かける者もいるだろう。

 ちゃんねる・ぜろを離れ、タツヒコが作ったアクセスパルという会社を検索してみた。IT業界向けに発行されているメルマガのバックナンバーのページがヒットした。一昨年秋の記事だった。

<株式会社アクセスパル(東京都渋谷区 水野達彦代表)は、ふれんどウェブ(株)(東京都港区 中山栄治社長)に全株式を5千万円で譲渡し、今後はふれんどウェブの傘下として活動することとなった。懸賞を通じてさまざまな情報を収集し、販促資料として企業に提供してきたふれんどウェブは、これによって、広告アフィリエイトサービス部門の強化を進めていくと中山社長は述べている。>

 たしか、HP小僧のスタッフ間のやり取りにはフリーのMLを使っていたようだ。takayoの話や、ちゃんねる・ぜろの書き込みでも、素人レベルのシステムを使っているらしい。
 そんな会社に5千万円の価値があるのだろうか?もちろん、一概には言えないが。

 バックボタンで検索のページに戻ると、そのページの少し下に同じメルマガで4年ほど前のバックナンバーもヒットしている。それは有限会社だったアクセスパルが株式会社に移行した時のものだった。役員の顔ぶれにはふれんどウェブ社長の中山氏も見えた。

 食事にするのでPCを終了させようとした時、メールの着信メッセージがあった。希羅々の従妹からのものだと、ルネは直感的に思った。


  □ □ □ □ 
送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 送ります。よろしくお願いします。
 ――――――
ルネ様

こんばんは。
こんなメールが来ています。
あんなことがあった後ですし、恐怖を感じるような言葉や内容もあり
時々、背後に誰かが忍び寄っているような気がして、
心臓がどきどきしたり、そんな不安な日々を送っています。

でも、従姉のお友達の方々が、いろいろ助けてくださるので
何とかやっています。

突然メールを差し上げたので不審に思われるのはもっともです。
ルネさんにメールしたのは、
ある方が、自分はインターネットに詳しくないけれど、
この人なら頼りになるだろうと教えてくださったからです。
その方のお名前を書いていいかわかりませんので
ここではある方ということで、お許し下さい。

この3通のメールは、いずれも、返信しても戻ってきてしまいます。
それから、以前のメールで同じメルアドからのものや内容の似たものは
ぜんぜん残っていません。
気分のいいものではないので、従姉が削除してしまったのだと思います。

それでは、お暇な時にでも見て下さって、
何か気づかれた事があったら、アドバイス頂ければ幸いです。




 横江 潤子

  ========


 ルネは料理するのが嫌いではない。でも、今夜は、あまり時間をかけたくなかったので近くの中華ファミレスで夕食を済ました。
 比較的空いていたのでゆっくりしても良かったのだが、アルコール類やコーヒーも頼まず、食べ終わるとすぐ部屋に戻る。

 ブラウザの受信ページにアクセスし、さっき、軽く目を通していた潤子からの転送メールをもう一度読んだ。
 どれも、あまり長くはない。


  □ □ □ □ 
送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 Fwd:
 ――――――
---original message---
送信者
 宛先 希羅々
 件名
 
昨年末にメールを差し上げたんですが、お返事を頂けないので再度送ります。昨年後半に、蝙蝠さんから何かをお預かりしていないでしょうか?メールに添付されたファイルなのですが、お心当たりはありませんか?
理由や経緯を申し上げることは出来ないのですが、この件について早急に対処しないと、あなたの身辺に危険が及ぶ可能性があります。ぜひ、返信をお願いします。

  ========

 送信者欄と件名にはスペースが入れてあるだけだった。これを不気味に感じる人もいるだろう。
 生前、希羅々からルネへ送ってきたメールで「蝙蝠さんのことをいろいろ尋ねてる」変なメールに触れられていた。それと同じ差出人からのように思える。
 でも、返事を求めているのに返信しても戻ってきてしまうのは変な話だ。設定を間違えているのか、それとも、何か別の意図があるのだろうか?


  □ □ □ □
送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 FW: Fwd: Re: ふふふ
 ――――――
---original message---
送信者 レイカ
 件名 Fwd: Re: ふふふ

いちばん高い塔の歌
束縛されて手も足もでない
ひきこもりの青春
いらぬ気づかいだが、ただ彼女は
自分の生涯をふいにした。

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 これはアルチュ−ル・ランボオの『いちばん高い塔の歌』がベースらしい。
金子光春訳だと、該当する部分はこうなっている。

束縛されて手も足もでない
うつろな青春
こまかい気づかいゆえに、僕は
自分の生涯をふいにした。

 このメールで注目すべき点は、件名を見ると、この送り主が誰かに「ふふふ」という件名のメールを送り、それに対して返ってきたレスを転送してきていることだ。だから、この文章は、その相手が書いたものだと思われる。
 内容は希羅々のことを示していると考えられないでもないが、そうすると相手も彼女を知っていることになる。“いちばん高い塔”は彼女が転落、あるいは飛び降りた建物の暗喩したもの考えられ、ということは、彼女の死について、ある程度の情報を得ているわけだ。
 シニカルな文面から、その相手は彼女に対して悪意をもっているようにも想像できた。
 ランボオを踏まえていることから詩に関心のある人物であることが考えられる。

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送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 Fwd:悔い改めよ
 ――――――
---original message---
送信者 The muse
 宛先 希羅々
 件名 悔い改めよ

一篇の詩が生まれるためには、あなたたちは殺されなければならない
多くの凡庸で下品で貧困な想像力は屠殺されるのだ

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 これに似た文章は、読んだ記憶があった。かなり有名な詩人の作品を書き換えたもののはずだ。
 ルネは“一篇の詩が生まれるためには”で検索して、その結果から田村隆一の『四千の日と夜』を元ネタにしていることがわかった。

一篇の詩が生まれるためには、
われわれは殺さなければならない
多くのものを殺さなくてはならない

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