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HTML殺人事件

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 前方の堤防の上を電車が横切り、鉄橋を渡って行く。JRと相互乗り入れしている地下鉄千代田線の車両だ。北千住駅を出て間もない地点だからまだスピードが出ていなくて通過時間が比較的長い。最後尾が通り過ぎるのに合わせたようにトリルはルネに顔を向けて言った。
「ルネさんは、ちょっと違うね」
 何が違うのかルネにはよくわからなかったが、そのことをトリルに質問しようかどうか考えているうちに、彼女は堤防の斜面にある階段を降り始めた。

河川敷に下りて鉄橋の下をくぐる。といっても線路の位置はかなり高い。
「この辺でよく金八とかの撮影をしたんだよ。知ってた?あの校舎は建替えがあって、もうないけどね」
 そういわれれば堤防や周囲の風景はドラマの中で見覚えがあるものだった。
「トリルさんはあの中学へ行ってたの?」
トリルは首を横に振った。
「ううん、私の住んでるとこは学区が違うから」

 そのあたりの河川敷には雑草もかなり生えていて、丈の高いものも多かった。
鉄橋の影の部分を通り過ぎて明るい場所へ出ると、地面からオーラが沸きあがっているように感じる。
「あの番組、よく見てた?」

 ルネはさっきから感じていたのが春の気配だったと気づいた。というか、それにもっともふさわしい言葉を見つけ言語化できたということになるだろうか。
 “春の気配”という言葉が頭の中でリピートしている。。
 都市の中のまったく人工的なものが春の息吹を発することはない。夏だったらアスファルトやコンクリートが熱をはらみ輻射もあるから、その存在をありありと感じさせられる。冬はそこに凍結した大気があれば、いやおうなしに自分がその只中にあることを知る。
 春は、たとえビルの連なる中でも花壇の草花のようなものから、その来訪に気づくのだ。

 トリルはルネのやや先を、ただ前を見て歩いていた。ルネはトリルの質問にどう答えたら適切な表現になるか、少し推敲のような作業をしてから口を開いた。
「あれは好きじゃなかったから、そんなに見てないよ。子供の頃のことだけど、それでも再放送だったのかな」
 少し先にもうひとつ鉄橋がある。クリームイエローの電車が渡っていくのが見えた。東武線で、日比谷線と相互乗り入れをしている。
「あの中で言ってたことで、ずっと疑問に思ってることがあるんだ。“人”って字は人と人が支え合ってできてるって盛んに言ってたけどさ、どうしてもあれは人間が足を開いて歩いてる姿の象形文字としか思えないな」
「そうだよ。結局あれはつまり屁理屈なんだけど、ああいうこと言う奴に限って自分に反論してくる相手の言うことは屁理屈って決めつけるんだよね。でも、この辺の人間ときたら本当にあんなもんだわ。まあ、この辺は田舎ってことよ。東京って言ってもね。」

 風が渦を巻きながら通り過ぎて行き、トリルの服のあちこちについているフリルが激しく踊った。布地の黒と白のコントラストは、愛らしさを振り撒くよりむしろ柔和な陽射しに和もうとする世界を威圧していた。世界の緊張を孕んだ複数の対角線が交差するポイントはルネの視界の中で彼女がいる場所だ。
 トリルは階段の方に向かって足を速めていた。ルネは彼女を追って、また堤防の上に登った。

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