HTML殺人事件

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「はいどうぞ。そいでもって、俺はまあ見た通りのこういう者ですよ。この明日香、あ、トリルだったっけ? まあ、こいつとはネット友ってやつかな。てことにしとこう。そいでもって、いわゆるホームレス。フォークシンガーに泉谷しげるってのがいるんだけど、あんた若いから知ってるかな? その人に似てるってんで周りからはネズミヤシゲルって呼ばれてます」  ネズミヤはちょっとあらたまって自己紹介をした。
 中に入った時は例の犬小屋とも動物園ともつかない臭気に襲われ、それはまるで身体の全感覚をを圧迫されるような気がするほどだったが、だんだん嗅覚が慣れてきていた。それでもビニールシートの匂いと混じって辺りに充満しているものは、意識からすべて消え去ったわけではなかった。
 アルコールで感覚が麻痺すれば気にならなくなくなるかもしれないと思い、ルネはグラスの焼酎を3口ほどですべて飲んだ。
 ネズミヤは笑顔を見せ、どんどんやってくれとペットボトルを取ってルネのグラスを満たした。

「ああそうだ。この間はマツケンサンバを見つけてよお」
「マツケンサンバ?」
「いや、マッキントッシュだった。ここいらの野郎どもはマッキントッシュなんてハイカラな言葉は覚えられねえからよお。林檎のマークはマツケンサンバって教えてるんだ。上物だから見つけたら知らせろってな。ゴミ収集の場所を回って、まだ使える資源があれば持ってくる。そうすれば、ひいては地球環境を護ることにもなるじゃねえか。そういうのは俺たちホームレスの使命でもあるわけだ」
 ネズミヤは上体を起こしてナチス式の敬礼をすると、また寝転がった。

「あの時捨ててあったのはなかなかいいのだったよなあ。それも、かなり新しくってさ。OSXだぜ。でも、デスクトップだったから運んでくるのに難儀したってもんよ。一緒に行った野郎どものひとりが本体を自転車の荷台に乗っけて、もうひとりがモニターを担いでよお、そいで俺が残りのスピーカーだのキーボードだのを持って来たんだが、何しろ白金からここまでだからな。いやあ、きつかった。もっともそういう場所でなきゃ、お宝には巡り会えないわけだけど。とにかく俺にはマックなんて扱いにくくていけねえから、知り合いの古物商に引き取らせて金にしたけどな」
「兄ちゃん、何か欲しい物があったら言っとけよ。もし見つけた時は連絡するからよお」
 それからネズミヤは、金持ちに囲われたホステスやモデルはパトロンが変わると部屋も引っ越すのだが、その時、もちろん金は男持ちで家財道具も全部買い替えるので、そういう地域を回るとよく掘り出し物があるんだと言った。
「まったく、最近の人間は物を粗末にするよなあ。外にある自転車、ほら、兄ちゃんがさっき見てた輪っかの小さいのだけど、あれは西麻布で見つけたんだ。ちょうどねえちゃんが置いてくとこだったんだけど、こんなでかいゴミを収集車は持ってかないよって言ったら、じゃあおじさんにあげるよだってさ。まあ、ここにあるものは、みんなそういう感じで調達してきたんだけどな」

 ネズミヤは脇のクッションを取ると、それを枕にして横向きに寝そべった。
「おお明日香、俺は今日歩き回って疲れたからよう、適当にそこらのサイトを回ってそこの掲示板に何か適当なこと書いといてくれや。前にやったからわかるだろ?」
 トリルは不承不承な様子でグラスを横に移し、ノートPCを自分の前に置いた。
「そこを見る連中が男みたいだったらうんと女っぽくな。こっちのサイトを見に来たくなるようなうまいことを書いとくんだぞ。おまえならほら、顔文字なんか使ったりしてうまくやれるだろ。どうも俺はそうゆうの苦手なんだよ。女が多いのならそうだな、あれあれ、ジャニーズ系。あんなのが管理人じゃないかと思わせるようなのな。よろしく」
「まったく。人使いが荒いんだから」
「立ってるものはチンポでも使えって言うじゃねえか。まあ、頑張ってくれよ。俺の貴重な収入源だからよお。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、アフィリエイトも数うちゃポイント貯まる、だろう?」
 ネズミヤは起き上がり、役者が見栄を切るような感じで言った。
「こう見えても、俺はアフィリエイターだからな」

 ネズミヤは自分の近くにキャンドルを引き寄せると、隅の方に積んであった雑誌の中からエロコミック誌を抜き取って、また寝転んだ。
「ついでだからうちのサイトのブログも適当に書いといてくれや。若い美人が書いてることになってるんだから思いっきり男心をそそるようなやつな。こういうのもおまえのためになるんだぞ。おまえ、プロのもの書きを目指してるんだろう。俺はおまえのためを考えて文章を書く勉強させてやってるんだ。これも修行だよ。修行するぞ修行するぞ修行するぞ、だ。尊師の教えに従えよ」
 トリルはあまりやる気のなさそうな表情でマウスのボタンをカチカチさせて目当てのサイトのページからページを巡っているようだった。
「そういうのだったら前に出会い系のサクラ、やったことあるよ」
「ああ、どうせ悪い男に引っかかって、そんなのやる羽目になったんだろう。どうだ、図星だな。ということは、あの自称ミュージシャンか?」
 ネズミヤは目と、たぶん意識もエロコミックに奪われている。だからまるで、彼の中の自動システムのはたらきで喋っているかのように見えた。
「そうじゃないよ。別のネットの友達に頼まれちゃってさ」
 遠くで車の音が聞こえるが、辺りは静かだ。
「うーん。でも、あのやり方、今から考えるとマルチとかの一種かもしれないなあ。それに、もっと怪しいこともあったけんだど…」
 トリルはPCの画面に向けていた目をルネに移した。ルネと視線が合った。
「でも、その友達の女の子は亡くなったらしいよ。従妹だって人がメールで知らせてきたんだ。PCにあたしのアドレスが残ってたからって言って」

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