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HTML殺人事件

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 トリルはアクセスしていたブログのコメント欄に書きこみを終えたようだった。
「今日はこんなもんで終わりにするよ。さすがに疲れた」
「おお、サンキュ。しかし、俺んとこのポエム書いてもらってた時にも思ったんだが、その場に合わせてうまい言葉が出てくるのは、たいしたもんだよなあ。こりゃあ文才がなければできるもんじゃないぜ。経験を積んでるだけのことはあるよ」
「ううん、前にやったとこでは文才なんて全然必要なかったよ。欲求不満のDQNやオヤジが相手だったしね。文学的な表現なんかしたって向こうには通じないわけ」
「どんなことをやってたの?」
 ルネにとって興味のある事柄に近づいてきたようだった。だから、もっと核心に触れるようトリルに話題を振った。

「うん、まあ、さっき言ったみたいに出会い系の掲示板でレスしたり、指示されたアドレスにメールしたりだけどね。あなたのお好みに適合する相手として私が指名されましたとか、まあ、そんなやつ。文章は押さえるべきポイントがあって、後は自分で考えるの。メールは専用のソフトをインストールして、それを使うことになってた。同じのを一度に何百とか何千とか送る機能がついてたみたいで、それを使うこともあったね。宛先だと思うけど、時々更新用のデータが送られてきて、そのファイルを上書きするんだよね。あたし、コンピューターには詳しくないからよくわかんないけど、そのメーラーだと送信元が隠されたりしてたんじゃないかと思う」
 トリルは「何か飲み物ない?」とネズミヤに尋ね、ネズミヤが冷蔵庫を開けている間にグラスの焼酎を2・3口飲んだ。
「なんだか変だったのは登録の時、すごく細かいことまでアンケートに答えるの。本名や住所や生年月日だけじゃなくて、今まで行ってた学校名を全部とか親の職業とか学歴とか彼氏の趣味とか学歴とか、もっといろいろね。それから『あなたが勤務している会社の重要な機密を知ることとなりました。それには違法な要素も含まれていますが、もし告発すれば会社は倒産し、あなたは職を失うことになります。あなたの現在の年収は2000万円です。あなたはこれからどのように行動しますか?1.社会正義のため、マスコミや警察に知らせる。2.その事実は自分の胸に収めたまま退社して誰も知らないところへ姿を消す。3.法律的上はどうあれ会社がそれほど悪いことをしているとは思わないので、それまでと変わらない生活を続ける。4.その他』みたいのとか、ほかにもいろいろあって1時間くらいかかったかな」
 ネズミヤは缶のドリンクを3本取り出して、二人の前に置いた。トリルにはコーラ、ルネにはコーヒーだ。自分の手に残ったウーロン茶のプルトップを開く。
「そういうのはACCESS-Palでもあったぞ。もちろん俺は全部適当に書いたけどな。高見沢まどか。17歳。紅薔薇女学園高校2年在学中。現住所;世田谷区成城…。父親の職業:医師。父親の最終学歴:慶応大学大学院。ってな具合だ。ははは、ざまあみろ。まだ、いろいろあったぞ。明日香が言ったみたいな心理テストか適性検査みたいのとか」
 ルネも缶コーヒーを開けて口に運ぶ。“微糖”と書いてあるが甘味がけっこう強い。
「ふつうは、本名でちゃんとした個人情報を書くでしょうね。アフィリエイトのポイントは換金されて口座に振り込まれるんだろうし、でたらめだと支障がでますからね」
「まあ、俺は偽名の通帳を手に入れてるけどな。例のヤクザから」
 ネズミヤはジーンズの後ろポケットに差してあっ財布を取り出した。皮製の意外と立派な物でブランド品かもしれない。開くと中にある紙幣は千円札が数枚のようだったが、紙片の間に挟まっていたプラスティック板を探し出し、キャッシュカードもあるぜ、とかざした。
「あたしん時も、ギャラが振り込まれる口座を登録させられたね」
 何気でルネは尋ねた。
「トリルさんがやってたとこの社名は何ていったの?」
「“アクセスパル”だったけど…。あ、今のとはカタカナで書くか英語かの違いだけだね。同じ会社なのかなあ?株式会社アクセスパル 水野達彦…って、メールの最後に必ずあったのを覚えてるけど」
 それだけではなんとも言えなかった。インターネット関係の企業が社名に“アクセス”のついたものを考えるのなら、よくありそうなことだ。ただ、これでトリルの関わっていたのはタツヒコが経営していたアクセスパルだったということがわかった。

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