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HTML殺人事件
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その時だった。
「おーい、ネズミヤシゲル。いるかあ?」
入口の向こうで男が声をひそめて呼んでいる。
ネズミやが戸を開けると、薄茶色の作業衣上下を着た男が入口から顔を出した。笑顔が無邪気で人懐こそうな印象を受けるが、顔面の筋肉が少し緩んで動作も鈍く見える。アルコールがいくらか回っているらしかった。
「サツが巡回してるからよう、気をつけた方がいいべや。川下の方からだんだん回ってるから、ここもそのうち来るかもわかんねえぞ。気いつけろや。何でも指名手配の犯人が、この辺りに潜伏してるかも知れんで、調べとるらしいっちゃ」
「指名手配だとお?イヌどもがよく言うよ。まあ、理由は何とでもつけられるんだからな。そんなのは国会だって皇居の中にだって潜伏してないとは限らないわけだぜ、実際。要するに、奴らはこの辺りを嗅ぎ回りたいんだよ。場所とか人間とか、自分らが把握できないものがあると、不安で居ても立ってもいられなくなるっていう犬どもの性分というか、一種の病気だな。まあしかし、こちらもやるべきことはやっとかにゃ。源さん、あっち頼むぜ」
「よしきた」と男は出ていった。
「兄ちゃん、パソコンを終了させてくれ」
ネズミヤはルネにそう言うと、室内の点検をはじめた。
数分後、彼が戻って来たらしい足音が聞こえると、ネズミヤは隅の何かに掛けてあったカーテンのような布を取った。その下にあるのはコードリールで、PCの電源もそこに繋いであった。
「抜いて来たぞう」
外から源さんの声が掛かるとネズミヤはリールを回し始める。コードは結構長くて数十メートルあったかもしれない。ネズミヤは軽く鼻歌を歌いながら、結構楽しそうに巻き取りを終えた。
源さんが入口から覗いた。
「あのビルは外にコンセントをつけてくれてるから助かるよなあ。ご親切なことだ。しかし、電気料の請求を見た時、バレないかね」
「いやあ、何しろ昼間から照明を点けてるし、シーズンにはエアコンだってびんびんだぜ。こっちが控えめにやってりゃわかりゃしねえよ。そうは言っても金はあっちが払うからっていい気になって使うと向こうもおかしいなってことになるからな。何事も控えめが肝心さ。まあ、あまり欲を出すと失敗するってこと。何事も程々に、だな」
「よし、いいな。ほんじゃ」と源さんは帰って行った。
「あいつはああ見えても大学中退なんだぜ。ま、この業界では中卒の俺の方がいくらか先輩だから、何かと面倒見てやってんだけどな」
ネズミヤは少し誇らしげにそう言った。
「あんたたちも、ここにはいない方がいいだろう。堅気の人がこういうところにいるのを警察に見られると不審がられて、いろいろ面倒なことになるかもしれんからな。ホームレスがいるのならあたりまえだけどよう」
ネズミヤの言葉に従いルネたちは外へ出て、彼からまっすぐ行けばいいと言われた方向に歩いた。
途中で進行方向から光力の強いライトがだんだん近づいて来る。やがて、パトロール中の警官二人とすれ違ったが、彼らはルネとトリルに特別な関心を示してはいないように見えた。彼らは何か冗談でも言い交わしているらしく、小声で笑いながら道の奥のほうへ向かった。
しばらく歩いてダンボールハウスの多い地帯を過ぎると、散歩なのか、それとも家に帰る近道なのか、時々人とすれ違う。ルネたちの後を20メートルほど離れて同じ方向に歩いている男もいた。何とはなしに、彼はこの辺りのホームレスのような気がした。ポロシャツにコットンのパンツで髪も比較的整えられていたが、彼らの多くは極端に不潔な格好をしているわけではない。
これといった話題もないので、二人はずっと沈黙のまま歩いていた。いや、少なくともルネにはトリルから得たい情報があったが、どのように話を切り出していいかわからなかったのだ。しかしその時ルネの頭に、いい台詞が浮かんだ。
「僕のネットの友達も亡くなってたことがあったよ。従妹っていう人からメールが来てわかったんだけど」
「希羅々さんでしょう?たぶん、そうじゃないかと思ってたわ。ルネさんに会いたいと思って何度もメールしたのは、そういうのがあったからよ」
予測していたようにトリルは応えた。別に驚いたふうでもない。
「それともうひとつあるんだけどね」
その時、ふたりは公園の門のところまで来ていた。その外は広い通りで、右の方向には交差点がある。二人はそちらに歩くことにして会話は途切れた。少し行くと近くに昼間降りた浅草駅が見えた。駅の建物はデパートになっている。その付近は明るくて人通りも比較的あるようだったが都内のマイナーな駅前より少ないくらいだっただろう。
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