
HTML殺人事件
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戦後、日本は表面上民主化されたが、東西の冷戦は深刻な事態となっていた。日本の共産化をなんとしても避けたいアメリカにとって、右翼はひじょうに利用価値のある存在であり、瑞穂の会もその一端を担うことを期待された。
教団の学生組織は'60年、'70年の二大安保闘争時、街頭やキャンパスで左翼と渡り合い、民族派勢力の中でその存在を多いに主張したのである。
しかし、すでに右翼思想では多くの信者を獲得することが出来ない時代になっていた。教団は、主婦層を中心に家庭の円満といった小市民的幸福の実現を掲げるソフト路線に方向転換し、過激な右翼の顔を表面に出すことは控えるようになった。教団の財政のかなりの部分は鎌足の著作の売上げで賄えるため、一般信者に多大な寄付を要求するようなことは少なくてすむ。そういうこともあって瑞穂の会は、比較的良心的で穏やかな宗教団体として新興宗教の中でも有数の信者を誇り、強力な選挙基盤として政界との関係も密接なものとなった。
豊富な財源によって大規模な宗教施設を各地に建設したのもこの頃である。このような唯物・形式主義は鎌足が著作などで述べていることと矛盾するのだが、鎌足本人はもとより信徒の多くは何の疑問も感じなかったようである。
しかし、ソ連の崩壊やバブルを経て国際情勢や日本人の意識も大きく変わっていた。
瑞穂の会は神道をベースに天皇中心の日本を奉ずる農耕文化的な思想といっていいだろうが、そういったものは、いつしか、先鋭的発達を遂げた高度市場社会の日本にはそぐわないものになっていたのである。
今や瑞穂の会は、このような時代の進歩についていけない者たちが何とかそれなりにアイデンティティーを得ようと集まってくる場でしかなく、必然的に年寄りが増え、若い信者は次々離れていくこととなった。
そして、この頃、鎌足はこの世を去る。死は人間の迷える想念が作り出すものだから実在しないというのが彼の説だったのだが、90代の高齢まで達したとはいえ、やはり死は存在したのだ。二代目教祖の喜代晴も、教団の大きな行事に出席する時以外は、ほとんど寝たきりらしい。教団で最も高い境地にいても死や病気の想念を払拭することが出来ないのである。これで愛想を尽かさないのだから、信者たちには『いのちの実在』をちゃんと読んでいるのかと聞いてみたくもなるが、カルトに騙される人間というのは本当にお目出度いものである。
また、鎌足の死から間もなく、教団の広告塔の役割を果たしていた経営者の企業が倒産した。彼は親の代からの熱心な信者であり、この企業内では瑞穂の会に入信しない者は昇進もおぼつかなかったので、社員の多くが入信していた。会社のためひたすら邁進するのが神の道であるとマインドコントロールされ、サービス残業させられ放題でも文句を言わないのだから、企業の業績も伸びるというものだ。結局、無茶な海外進出を企てて失敗したのだが、これは二代目教祖喜代晴が、失敗や倒産は人間の迷える想念による。神を信じれば必ず成功すると炊き付けたからだという噂もある。
病気のため退いた二代目に代わり、教祖の座についたのは三代目冬麿である。彼は某キリスト教系大学に在学中の頃、瑞穂の会に入信した。ミッション系の学校にいた冬麿が神道系の教団に入るのも奇妙だが、この大学は、よく知られる右翼系文化人を複数輩出してもいるのだ。
また、過去の学長には、反社会的活動で問題を起こすことが多い半島系カルト『神霊十字軍』の教祖を偉大な宗教家と褒め称えた者もいる。神霊十字軍は表面上はキリスト教を標榜しているものの、キリスト教・仏教・儒教など世界のあらゆる宗教を統合したと述べ、教祖は再臨のキリストを自称しており、多くのクリスチャンから異端視されているのは良く知られているところである。
(『■神霊十字軍』のページ参照)
世間に指弾されている霊感商法でかき集めた金の中から財政状態の厳しい私学に寄付したためのお追従と見る向きもあるが、はたしてそれだけなのだろうか。
教祖の座についた三代目冬麿は、信者の減少と老齢化に何とか歯止めをかけようと、瑞穂の会のあり方を根本的に変えることを宣言した。まず、若い層に不評だった初代鎌足の思想を封印し、教団をエコロジー運動重視に方向転換したのである。
冬麿は鎌足の著作のほとんどを絶版にするという画期的方策を断行した。鎌足の教えは文字や文章自体に立脚するものではないから、逐語的に意味を追っていくと、かえって誤った解釈に到達してしまうというのがその理由である。
これには信者の多くが戸惑いを隠せなかった。なにしろ高齢の信徒にとっては、鎌足の説いた皇室中心・家族や社会の和を強調した農耕文化的な教えこそが瑞穂の会の信仰であり、何やら今風なエコロジーという言葉に食べ慣れないファーストフードのようなイメージしかもてなかったからである。
また、専従職員や講師のように生計を教団に依存している者たちの多くも不安を隠せない。何と言っても出版は教団の財源の主要部分を占め、それは鎌足の著書、特に『いのちの実在』によるところが大きいからである。
そんなこんなで、冬麿の努力にも関わらず、集会で見るのは老人の姿ばかり、信徒数の長期低落傾向は依然として続いている。
また、教団を離れた信者たちが鎌足の思想を受け継ぐ原理主義的グループを作る動きも海外を含むあちこちで見られる。
最後にカルト関係をはじめとしてITから政治まで広い分野で活躍する社会派ライター、平次啓太郎氏の著書『地獄のメシア』に興味深い部分があったので引用しておく。
<マインドコントロールや霊感商法がメディアの追究を受け、広く人々の知るところとなった今、街頭での勧誘や訪問販売では成果を上げることができなくなった。しかし、神霊十字軍の暗躍は依然として続いている。いや、むしろ、以前にも増して活発かつ成果を上げていると言えるかもしれない。しかし、私たちは彼らの姿をほとんど見かけることがない。彼らはどこにいるのか?
彼らは今、別名で宗教団体を立ち上げ、あるいは既成の組織に入りこんで、そこを乗っ取るという方法で世間の目を逃れている。もう彼らは日本のカルトの多くに滲入し、その中のいくつかでは主導権を掌握している。前代未聞のテロ事件を起こした教団も、実は既に神霊十字軍の支配化にあり、その誘導によってあの事件を起こしたのだ。
特に教祖や教義が新鮮さと魅力を失い、信者に見放されて活動が停滞しているような教団は、彼らにとって絶好の宿主である。寄生生物は、そこに住み着くやいなや、その高度な謀略のノウハウを用いて人々を欺き、善良な市民達の財産や若者をサタンへの供物とするため蠢きはじめるのだ。>
[To be continued]
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