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HTML殺人事件

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 Poem Villageの作者一覧ページを開くと、HNがabc〜あいうえお順に並んでいる。ルネはその中から希羅々を探し出し、クリックした。彼女の投稿作品のタイトルから、気の向くままにいくつかの作品を読んだ。
 希羅々の詩にファンが多いのは、何となくわかるような気がする。後を引くフレーズやうまさを感じさせる表現部分があって、高瀬川麗佳がライバル視していたというのもなるほどと思えた。
 しかし、少なくともルネについて言えば、読んでいくうちにそこに没入させられるようなことはなかった。けっして悪くはないのだが、ただテキストの上に目を走らせているだけで、そこに意識を集中させることはない。そういう印象は麗佳の作品からも受けるし、ネット上のあるいは紙メディアの詩でも同様だろう。

 こんなことを考えながら希羅々の詩を見ていくうちに、ルネは、こんな作品のページを開いていた。
 雷のキオク
    希羅々

天国にたゆたうような
午後のまどろみのあと
まるで神のもとから
突然突き放されるように
光を失い 冷えていく世界

激しい雨音に 呆然としながら
考えてみれば
あなたの愛撫のあいだ中 ずっと
雲は湧き上がっていたのだ

醸成されていた世界の悪意が
ベランダの向こうで水煙を上げる

まるで私たちの原罪が
稲妻に打たれるようだ

やがて青空と光が戻って来ても
もう私たちは気づいてしまった

わたしたちがいたのは
きわめてみじめな世界の中だったことに
 感想欄に、takayoの名前があった。。
takayo:これは、まったく私の個人的な思いなんだけど、読んでいて恐くなる部分がありました。「まるで神のもとから突然突き放されるように」とか「原罪は稲妻に打たれる」のところでは身体が凍りつくような気持ちになり、悪寒さえ覚えました。あ、でも、私は雷が苦手だからで、この詩はちょっとエロチックな美しさもあるいい作品だと思いますです。
 ケータイがルネにメールの着信を知らせる。
拝啓。ネズミヤだ。
急に旅に出ることになってな。
それで身辺整理してる。
ま、どっちみち今いる公園も近々、
区役所から追出しをくらうらしい。
という情報が俺には入ってる。

それで、明日香が
ノートパソ欲しがってるから
置いてってやろうと思うが、
今、鬱病がひどくて
外に出られないらしい。
あいつが治るまで
兄ちゃん、預かってくれないかな。

とりあえず、電話下さい。
 次の日の夕刻。ネズミヤが待ち合わせ場所に指定した公園はルネのマンションから2キロほど離れた場所だった。自転車ならよく乗るが、それとは違う筋肉も使う方がいいだろうと思い、歩いていくことにする。
 それほど大きくもないし有名でもない児童遊園のようなものなので、ルネは、そんなところに公園があるのを知らなかったが、ネズミヤはその辺の地理にやけに詳しかった。以前住んでいたというわけでもないらしい。ホームレスの仕事といったら、やたらと歩き回ることで、その時は公園が拠点だから、都内のはあらかた把握しているのだそうだ。

 公園には人影が少なく、遊具の辺りに子供とその母親が数人と、少し離れたベンチに作業服の男がひとり座っているだけだ。遠くから見ると中年の労働者かホームレスのように見えたがネズミヤではない。日陰であるためかもしれないが、ルネには、そのあたりが音のない世界であるかのように感じられた。
 男は何か物思いに耽っているように見えたが、近づいて来るルネに気づいて「やあ」と手を挙げた。
「ネズミヤシゲルはもう来るはずなんだけどね。遅いな。あいつのことだから、どっかで引っかかってるのか…」
 ダンボールハウスで会ったことのある源さんだった。「まあ、座っててよ」と言ってから源さんは立ち上がって水飲み場へ行き、また戻って来てベンチに腰を下ろした。

 源さんの身体には余計な肉がついていない。ホームレスは期限切れの食品などが豊富に手に入るそうで肥満体の中年もけっこう見かけるが、彼もネズミヤのように終日歩き回ったりするのが結果的にダイエットになっているのだろうか。
 これといって話すこともない。ルネもそうだが源さんもあまり話し好きではないようだった。
 ただ、隣に座っているうちに、ルネの中に何か緊張感のようなものが生じてきた。源さんは常に周囲に意識を向けている、まるでセンサーの塊のような感じがしたのだが、でも多分、彼は単に神経質ということなのだろう。

「まあ、ネズミヤも、そのうち来るだろうよ」
 源さんはデニムのバッグから文庫本を取り出して読み始める。ルネがそれに目をやったのに気づいた源さんは「ああ、これ、ゴミに出してあったんで持ってきたんだ。月並みな言い方だけど、最近の人は物を大事にしないね」と表紙を見せた。
 『宮沢賢治詩集』だった。

 ネズミヤシゲルは自転車に乗ってやって来た。ダンボールハウスの脇に繋いであったルイガノのミニベロだ。外股でペダルを漕ぎタイヤ痕を左右にくねらせながら、ふらふらとやって来る。

「おう、その後、明日香とはうまくやってるか?」
 ミニベロから降りてスタンドを立てると、ネズミヤは下半身を突き出して数回揺らす動作をした後、ルネの顔を覗き込み、意味ありげににやりと笑った。
「ま、若いんだからな。いいよなあ、若いってのは。ま、俺だって兄ちゃんくらいの年の頃には、けっこう楽しませてもらったんだけどよお」
 ネズミヤにとって女性の存在と第一にまず性器であって、そういう意味では皆、同一なのかもしれない。だがルネは自分の場合、少し違うような気がした。例えて言えば、目の前に出て来た料理を必ずしも食べるわけではないというようなことだろうか。それは、見た目とか匂いとか、その時の気分によったりするわけだけれど、ルネはネズミヤのようにいつでも食欲旺盛なわけではないということかもしれない。でも、それを説明してもネズミヤには理解できないような気もした。人間の感覚は、誰のものも同じにできているわけではないのだ。

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