
HTML殺人事件
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「Helterさんて、ネット詩人の…ですか?」
「そうです。Helterさんはフリーターだったらしいですから自分の時間を充分おもちだったんでしょう。考える時間が豊富で頭が良過ぎると、普通の人間ではわからないことに気づいて、かえって悪い結果になってしまうんです」
これだけでは何のことをいっているのかルネにはまったくわからなかった。それにポプラは就職で仕事に時間を奪われたため表現から遠ざかってしまった自分自身を合理化しているか、あるいは慰めているように受け取れないでもない。
「ああ、ルネさんには時間がおありなんでしたね。だからと言ってルネさんは頭が悪いというわけではありませんよ」
ルネは会話に気を取られて周囲への警戒が疎かになっていたことに気付き、辺りを見まわしたが、通行人や車にこれといって危険な兆候は見出せなかった。
ポプラは話を続けた。
「それに、ルネさんのところには、あのメールが行ってないかもしれまませんしね。けっこうあっちこっちに送られてたみたいですけど」
ポプラは独り言のように呟いた。ルネは「メール?」と語尾を上げて、どんなことかポプラに尋ねたつもりだったが、受話器の奥からは「いえ、たいしたことじゃないんです」という言葉が返ってきただけだった。
細かく質問するのは止めておいた。もしポプラがルネにも周知の事実という前提で話しているのだとしたら、ここで中断させないでおけば何か興味深い事柄が出てくるかもしれない。
「とにかく、その辺に自殺の原因があるわけですか?」
「自殺?いや…」
しばらく沈黙があった。その間、ポプラは何かを考えているようにも思えたし、呼吸を整えているのかもしれなかった。
「私も詳しいことは知りませんよ。知っていたらあぶない」
彼はそれから話題を変えた。
「ああそうだ。トリルさんのことなんですが、彼女にはその、何というか、つまり心の病があってカウンセラーに通ったり、そういう薬を飲んだりしています。リスカを何度もやっています。わかりますか?リストカット。手首をカッターナイフで切るんです。まあ、自傷というやつですが」
リストカットという言葉を聞いて、ルネは『コノ セカイニ アイヲ』という詩のことを思い浮かべた。
この世界のどこかで
誰かが手首を切っている
彼女の足元にしたたり落ちる血液
ちぎられた睡眠薬のパッケージの山
WEBの日記に書かれたSOS
冒頭の部分はこんなだったと思う。
これは多世界の作品なのに、何故かPoem Villageには作者名がHelterで投稿されていた。それはどうもネズミヤのPCから行われたようなのだが、誰がどういう意図で投稿したのかはわからない。
内容にはリスカのことが書かれているが、これはトリルのことを書いたものなのだろうか。そうでないとしても、あの投稿はトリルに向けた何らかのメッセージだったのかもしれない。
考えているうち、間が空いてしまったので、ルネは慌ててポプラとの会話を続けた。
「リスカのことは以前、サイトに書いてあったのを読みました。今は閉鎖されてますけどね。でも先日、僕が会った時は、そんなに落ちこんだ状態には見えなかったんですが、それで、いわゆる鬱のような状態になったのには何か原因があるんですか?それとも、何もなくても悪い状態になるものなんでしょうか
「ええと」とポプラは何か言い出しかけてから口篭もった。
「それについてはノーコメントです。というか、ルネさんはご存知なのと違いますか」
コンビニの入口にたむろしていた連中は、すでに車に乗って走り去っていた。客は次々にやって来て、常に数人が店内にいる。
ポプラは、それ以上喋らなかった。何か感情を害したように感じられないでもなかったが、ルネにはその原因の心当たりもない。
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