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HTML殺人事件

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「トリルさんとHelterさんについてですけど」
 Helterの名前が出たためだろうか。話が途切れた間にルネの脳裏に浮かんだことがある。それを質問してみた。
「以前に何かあったんでしょうか」
「何かと言いますと?」
「ちょっとトラブったとか」
「トラブル?何のことかわかりませんが」
 ポプラの言葉には何か裏がある感じもした。とぼけて具体的な事実をルネに言わせようとしているのかもしれなかった。
「Helterさんがコラボで曲を作ろうと提案して、トリルさんをラブホに呼び出したとかいう話のことです」
「そうか、トリルさんはそんなことを言ったんですね」
 ルネは何だかポプラが感情を押さえて声を出しているような気がした。
「ああ、それは逆ですよ」
「逆…?」
「私がそれを言ってしまうのはどんなものでしょう。トリルさんがそう話したのならそれでいいでしょう?私はあなたたちの仲を壊そうとは思いませんから」
 ポプラの声のトーンが上がっていて、時々、ファルセットになりそうな感じだ。それに“仲”という言葉が出たが、トリルとは恋愛関係にあるわけではないし、ルネにそんな感情はない。ポプラは何か勘違いしているようだ。
「トリルさんが話したわけではありません」
「え?」
「ちゃんねる・ぜろにそういう書きこみがあったのを見たんです。Helterさんが亡くなったあたりのことでした。」
 正確に言えば、ちゃんねる・ぜろには別の掲示板のログのURLが書きこまれていて、そのログで読んだのだが、細かいことを言うと話がややこしくなる。
「ちゃんねる・ぜろですか。2・3度アクセスしたことがありますが、読んでいて気持ち悪くなりました。
 ポプラは小声で笑った。
「ああ、こういう場合には“なりますた”と書くんですよね、あの変な文体。内容的にも差別とか偏見が露骨に出ていて病的で知性を感じません。ルネさんは、あそこの常連さんなんですか?」
 ポプラの声の響きからは、ほっとしたようなものが覗えた。トーンももとの調子に戻っている。
「時々覗いてますが、たいていはROMです」
 ポプラは「そうでしょうね」と言った。まあ、ルネが常連だったら病的で知性のない奴ということになってしまうわけだ。

 公衆電話の番号から位置を確認している可能性があるので、ルネは、そろそろ切り上げた方がいいだろうと考えた。
「すみません、これからちょっと予定がありますので、また電話させていただきます」
「あ、そうですか。わざわざすみませんでした。何でしたら私の方から電話いたしますが、この番号は…」
 ポプラが単純にナンバーディスプレイを見ているのなら[公衆]の表示が出ているわけだから、“この番号”という言葉は不自然なようにも思えたが、それは考え過ぎかもしれなかった。
 ルネは会話を続けた。
「ケータイを持って出なかったんで、公衆電話からです」
 もしポプラが電話番号を聞いてくると面倒なので、機先を制するため、ルネはすぐ口を開いた。
「ケータイは仕事で必要のある時以外、電源を切っていますので」
 これは言い訳ではなく本当の話だった」
「そうですか。よろしければこちらから電話するんですが、それでは、また」
 と言ってから、ポプラは付け加えた。
「ちょっと失礼なことを言ったかもしれませんが、忘れてください」
 ポプラは電話を長引かせようとしているのかもしれない。ルネの意識にそんな警戒心が生じていたがポプラは続けた。
「あのメールはルネさんのところには行ってなかったんですね」
「メールって、それはHelterさんに関係のあるメールですか?」
「まあ、そうです」
「どんなメールでなんですか?」
「ネット詩人さんたちにわりと送られてたようですから、誰かに聞けばわかるかもしれません。いや、わからないんですが。Helterさんは別にして」
「ネット詩人さんて、例えば…」
「うーん、何というか、まあ希羅々さんでしょうか。あ、亡くなってますけど。いえ、よくわかりません」
 ポプラは逃げるように早口で意味不明なことを言った。これ以上尋ねても答を得られることはなさそうだった。

 「では、どうも」と電話は切れた。
 ルネは店内に入った。コンビニの通例として、正面のガラスの中に雑誌が置いてある。立ち読みを装いながらしばらく外を監視していたが、それらしい車も人間もやって来ない。どうやら今日のところは何者かが電話番号でルネの居場所を調べていることはなかったようだ。

[To be continued]
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