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HTML殺人事件
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眠りからの帰還はゆるやかに執り行われる。意識と身体は海底から水面へ、潜水病に陥るのを避け、時間をかけて浮かび上がるように現実の中に凝固していくのだ。
周囲にある、世界のひとつひとつの要素は不定形なものからしだいに形をなしてくる。ルネと現実との両者が互いを認識しながら再び出会い、そして時間が流れ始める。
帰還の途中でルネは、淡い色彩の遠いものの姿を見た。それはHelterに関する何かの記憶のようでもあった。
カーテンを透過して差し込む陽光やテレビの映像や音声がはっきりとしたかたちを取り始める間、それはルネの脳裏を漂っていたが、果たして記憶なのか、それとも夢なのか判然としなかった。
ルネはチャットの画面を見ているようだ。どこかのサイトにアクセスし、そこのコンテンツにチャットがあるので覗いてみたのだ。でも、たぶんROMだろう。今まで、自分がチャットに加わったことはあまり多くない。
……最近スパムが多くて頭きちゃうよ(`へ´)プンプン…そうだねみんなはどうしてる…メルアドや文中にあるURLのドメインをWHOISで調べて送り返す…そんなので効果あるかなあ奴ら屁とも思わないのでは(^_^;…だからみんなでやるんだよ…そういう運動を起こすかw…レンタルサーバーの管理者に転送してもしそこがスパムやエロサイトやマルチにきびしいところならあぽーんされるんだけどね…Helterさんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!…俺はファイル添付で送り返してやってるよ…ファイルって何?ウイルス?…テキストファイルでも画像でも何でもいいからファイル名をvirus.exeに書き換えて添付するんだよ…相手は驚くね…でもすぐ削除でしょ?…めちゃ重いのなら少しは嫌がらせになるかな……
ルネはWin98のデスクトップを起動した。
拡張子は簡単に書き換えることができるのだ。
ファイルのアイコンを右クリックし、“名前の変更”を選択すればファイル名と同じように拡張子の部分も好きなように変えられる。「拡張子を変更するとファイルが使えなくなる可能性があります。変更しますか?」
というダイアログボックスが出るが、「はい」をクリックすればいい。
ルネはsecret.vrsの.vrsの部分を.txtに書き換えてみた。
テキストエディタで開くと、文字化けが延々と並んでいる。アルファベットの大文字と小文字。大小のカタカナ。よく使われる漢字もあるが、漢和辞典を引かなければならないような、あるいは文字として存在するかどうかわからないようなものもあった。ところどころを区切るように縦線が入っていたり、それが、いくつか連続していたりする。記号や絵文字のようなものもところどころに見られた。
プロパティをみるとファイルサイズは300KB台で、それほど重くはない。ルネはPCの中にある画像ファイルを探しGIFの拡張子を.txtに書き換えた。そして、それをテキストエディタで開いてみる。
やはり文字化けが続いているが、初めの辺りに“GIF89a”という部分がある。もしかしてGIFファイルであることを表しているのだろうか。それとも、偶然こんな文字列になっているのか…。
ルネは、もう一度secret.txtをエディタで開いた。冒頭部分に“JFIF”というのが見える。 JFIFを検索してみると、これは“JPEG
File Interchange Format”の略であることがわかった。そうすると、これはJPEGの画像ファイルなのかもしれない。
JPEGの拡張子は.jpgだ。ルネはsecret.jpgに書き換えてダブルクリックした。ブラウザが起ち上がって、画面いっぱいに近い大きさの画像が表示される。
それは数枚の紙片を撮った写真だった。手帖を破ったものと思われるが、多くはその中に、小さな文字で文章がびっしりと書き連ねられていた。
たぶん、あのチャットの記憶は夢ではなかったのだろう。
チャットを覗いたのがいつごろか詳しくはわからなかったが、とにかくHelterなら、このファイルの謎を解くことができたわけだ。
[To be continued]
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