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HTML殺人事件

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[紙片7]

昼は灼熱、夜は酷寒。都市の砂漠をさまよう我々ホームレスにとって冬の夜は特にきつい。外で寝るアオカンにこだわって意地を張る者もいるが、もし幾ばくかの金があれば、暗くて寒い時間帯は屋内でやり過ごしたいと思って当然だ。収入源といえばアルミ缶集めや、電車の網棚や駅のゴミ箱から拾った雑誌を露店で売ることや、自販機の返却口に忘れられた硬貨を集めること。暇な時間をただうろつきまわるのが仕事で、おそらく一日数十キロは歩くから、犬も歩けば…で、現金や財布を拾うことも意外とあるものだ。そんなこんなで小金を手にした時、これまでは深夜営業のサウナや喫茶店、ファーストフードなどに潜り込んで朝を待ったのだが、先日、ある仲間に教えられてネットカフェという所に入ってみた。俺はもちろんパソコンの扱い方などまったくわからなかったのだが、そこの店員が暇を持て余していたのか人恋しかったのか丁寧に教えてくれた。おかげでインターネットというものをなんとか閲覧できる程度にはなった。それはもの凄い経験だった。パソコンの画面は世界に連なる窓であり、俺は、向こう側に広がる世界を覗いたり、そこに集う人々に向けて何かを書きこむことができるの だ。俺はネットサーフィンとかいうやつであるサイトへ行った。そこでは、自分の書いた詩を送ると瞬時にして掲載され、誰もが読んだり、感想を書いたりできるのだ。俺はかつて、自分の詩集を作って多くの人間に読まれるのを夢見ていたが、自費出版するような金があるわけはなかった。しかし、このネットというものなら、自分の作品は多くの人の目に触れることだろう。出版するといっても僅かな部数で、それもどれだけ読んで貰えるかわからないが、ネットならむしろ、それより遥かに多くの人間に俺の想いを伝えることができるのではないだろうか。そうだ、これからは、暗く寒い夜からこの椅子の上に避難して俺の言葉をを画面の向こうに投げてみよう。もしかして、それを誰かが拾うかもしれない。ホームレス生活を始めてからは暇な時間が多いが、冷房暖房の行き届いた図書館はそんな時の行き場所として皆よく利用しているようだ。だからホームレスには博学で世の中の動きに詳しいものが多い。何かを語らせればテレビのコメンテーターに勝るとも劣らないのではないだろうか。そういうわけで俺は図書館で今更ながら宗教書など読むようになった。学生時代に戻ったような気分だ。今まで はメシアの『宗教統一理論』を通して知識を得ていたのだが、そこには歪曲や捏造の多いことがよくわかった。この世界の真実とはまったくもって遠い代物である。あんなカルトに関わるのは、人生の一部を無駄に費やす以外の何ものでもない。仏教では他人の時間を奪うことも盗みに含まれるというのを読んだが、神聖十字軍は人の生のある期間を取り返しのつかないものにしてしまうのだから、それは一種の殺人と言ってもいいのではなかろうか。それなら、どのような人生を選べたらそれが真に自分のものと言えるのか?となると、その確かな答は思いつかないのだが…。もしかしたら、この人間社会というものが、まさにカルトなのかもしれない。


 紙片7の一部には既視感があった。かつて読んだ詩の中に同じような内容のものがあった気がする。Poem Villageの投稿でだったろうか。ルネはぽえ村でログのページを開いた。そこには検索機能があるので記憶に残っていた“昼は灼熱、夜は酷寒”というフレーズで探してみる。
『物語を編む人』という作品がヒットした。


 物語を編む人
          赤土
物語を編む人
夜となく昼となく
春となく夏となく
秋となく冬となく

   ・
   ・
   ・

 読んで行くとこういう部分があった。

昼は灼熱
夜は酷寒
世界は砂漠で
そこをさまよう私に
水分といえば自分の唾液だけ

 これは紙片の中の“昼は灼熱、夜は酷寒。都市の砂漠をさまよう我々ホームレスにとって…”に似ている。

暗く寒い夜から避難した椅子の上
物語を窓の向こうに投げれば
誰か拾う人がいますか?

 ここも“暗く寒い夜からこの椅子の上に避難して俺の言葉をを画面の向こうに投げてみよう。もしかして、それを誰かが拾うかもしれない。”と、きわめて近い表現だ。

 紙片1から紙片6まで、これを書いた人物はどこかのカルトの出家信者で、テロのような役目を担っていたことが窺えるが、紙片7では、おそらく脱会してホームレスになっている。

世界のためという妄想
殉教者の悲壮感に駆られ

 紙片1から紙片6まで、これを書いた人物はカルトの出家信者で、テロのような役目を担っていたことが窺えるが、紙片7では、おそらく脱会してホームレスになっている。

世界のためという妄想
殉教者の悲壮感に駆られ

 この部分は、彼の過去に対する思いを綴っているようにも感じられた。紙片7によれば、カルトは神聖十字軍らしいが、7枚の紙片は赤土が書いたものなのだろうか。

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