
HTML殺人事件
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ame*
<meta>
ルネは村岸のメールに書かれている多世界のサイトのURLをクリックした。
ブラウザが開くとファイルをダウンロード中の表示が一瞬出たが、すぐにFlashが開始された。
宇宙空間の、星間物質が比較的濃密な領域を想像させる画面で、細かい粒子や靄のような宇宙塵はランダムな動きをしている。
それはマウスの動きに反応して、どうやら一定の運動をする方向に移行しつつあるらしい。
やがて、宇宙塵はさまざまな周波数の光を発し始める。虹のような輝きが収束するとまた白い状態に戻り、その中で“many
world”と“enter”の文字がゆっくりと形成される。“enter”は中に入るリンクだ。マウスが触れるとストロボのような光が断続的に放たれる。
HP製作の仕事もしているから、これはというページがあるとソースに目を通すのはルネの習性のようなものだ。多世界のサイトはスキルとセンスの両面で興味をそそるものがあったので、ルネは次のページに移る前にソースを見ておこうと思った。
AltとVのキーを同時にに押し、次にCのキーを押して、表示されたソースを見て行くと、headの中に以下のようなタグが入っていた。
<META NAME="ROBOTS" CONTENT="NONE">
<META NAME="ROBOTS" CONTENT="NOINDEX,NOFOLLOW">
これはロボット拒否のタグだ。ロボットといっても、サーチエンジンが情報収集するシステムのことで、ページの中にあるリンクを辿って行った先々の情報を保存・登録する。
だから、自分のページが検索でヒットするようになるためには、まず、既に登録されているサイトからリンクを貼ってもらうことが重要なのだが、逆に検索で見つけられるのを良しとしない場合には、メタタグといわれるこれをHTMLのheadの中に入れておけば、ロボットは、そのページの情報を収集しない。
NOINDEXはページの情報を登録することを許さず、nofollowはそのページに記述されているリンクを辿ることを許さないことを表明していて、だから、もし適切なキーワードで検索しても、サーチエンジンにはその情報が登録されていないからページが発見されることはない。
そうすると、村岸はこのサイトを検索して探し当てたのではないことになるなとルネは思った。
だが、ロボット拒否をしていない他のページに多世界のサイトの情報が掲載されていて、そちらが検索にかかってわかったという可能性もある。ルネは多世界のサイト名やURLで検索してみたが、何もヒットしなかった。
やはり村岸は、このサイトを検索して見つけたのではないらしい。だとすると、誰かに聞いたか別の方法で情報を得たということなのだろうか。
次のページはサイトマップだった。ほとんどがFlashでできているので、ソースに特別注目するところはない。
“what's new?”の最近の作品に『世界最終戦争』というのがあるので、ルネはそれを覗いてみることにした。
世界最終戦争
あなたのスコア、および物質界と想像のすべての理由がそうであるあなたの神聖なゲーム脳は超越しました。肉は彼を招待した概念の時間から腐食し、どれが無知な人々になったかの中の文化の囮がエラーを熟させた一方、最後の戦争以来の精神的な[すべて]起源に世界で続きます……
ただ、テキストで書かれただけの作品のようだったが、難解というのだろうか。精神医学の本で見たことのある統合失調症患者が書いた文章のようでもあるし、ノストラダムスの予言詩を連想させる雰囲気もある。
意味不明で難解な文章と言うと『人間は表現する葦である』という詩のことがルネの頭をよぎったが、難解だったら隠されたメッセージがあるというわけでもないだろう。
ネット詩人の中にはカットアップという手法を使う者もいる。カットアップとは美術におけるコラージュのようなものだが、文学の場合だと例えば翻訳ソフトや翻訳のサービスをしているサイトを使って日本語→英語→日本語→英語…と変換を繰り返すようなことが行われたりする。文章が攪拌されたり歪曲されたような状態になるのを積極的に利用するのだ。
村岸はメールの中でシミュレーショニズムに触れていたが、この辺りの事かも知れないとルネは思った。
他のページも一通り見ておこうと思い、移動の前、例によってソースをチェックした。
<div onClick="x()">物質界と想像のすべての理由がそうであるあなたの神聖なゲーム脳は……
……生命オブジェクトおよび(特に)あなたを否定する必要がありました、人々のグルーブから降りてください。</div>
詩の部分が段落のタグ<div></div>で挟まれているが、タグの中にonClick="x()"とあった。これは、この段落をクリックするとx()という関数が実行されることを表わしている。よくある書き方としてはheadやbodyの中にスクリプトを記述するのだが、このソースではheadの中に<script
language="JavaScript" src="0.js"></script>とあるので、スクリプトは、このファイルとは別の0.jsという外部ファイルに書かれているようだ。だから、このソースを見ただけではクリックしてどんなことが起きるのかわからない。
何かの仕掛けらしかったが、無分別にクリックするのは考えものだった。この場合、多世界がひどいことをするとは思えないが、破壊的なスクリプトが挿入されたページもWEBにはよくあることだから、ルネは、いちおう慎重に対応づることにした。
その時、FMの音楽番組が一段落して、アナウンサーがニュースを読み始めた。
<ここでニュースをお伝えします。昨年の暮れ、都内杉並区の山本宏さん宅で一家4人が何者かに惨殺された事件は発生から5ヵ月が経過しましたが、捜査本部はこの度、犯人とおぼしき人物の似顔絵を公開しました。これは、事件のあった当日と、山本さん宅で夜間を過ごした犯人が家を出ていった翌朝、付近の住人や通りかかった人が目撃した不審な人物がおり、服装や容貌が似ているため、その人物は同一で犯人の可能性が高いと見た捜査本部が似顔絵を作成したものです。この似顔絵は警視庁のホームページで見ることができます。>
数ヵ月前にはマスコミを賑わし、ちゃんねる・ぜろでも祭になっていた事件なので、ルネは興味が沸いた。
多世界のサイトを見るのは中断して警視庁のサイトにアクセスした。
更新情報の中で“杉並一家4人殺人事件について捜査協力のお願い”をクリックする。
不審者の目撃談や犯人の遺留品など、情報が古い順に下から並んでいて、いちばん上に大き目の写真で犯人とおぼしき人物の似顔絵があった。
不精髭がない点を別にすれば、その男の顔はホームレスの源さんによく似ていた。
[To be continued]
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