
HTML殺人事件
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一家4人惨殺事件の犯人らしい男の似顔絵は源さんによく似ていたが、だからといってルネには警察に知らせようという気も起きなかった。
犯人が逮捕され死刑になったからといって、一見落着するのは時代物のドラマの中だけだ。でも、たぶん、犯罪というのは社会の構造の中から必然的に生まれてくるので、犯罪者とは、ただ、そういう場所に置かれた人間が、しかるべき道を選択しただけのことではないだろうか。もちろん例外的に、ヒトとしての機能が不全か壊れているためボーダーラインの存在しない場合もあるだろうが、そういうものに対しての妥当な対応となるとわからない。多数者の平和な生活のために抹殺するというのもひとつの考え方ではあるだろう。
とにかく、裁判と処刑の儀式をつつがなく行えば物語は終わり、一般ピープルは納得して、実はそれまで味わっていた高揚から醒める。
自分を犠牲にして社会秩序を護ろうと、どんな時でもボーダーラインを超えないでいる者もある。しかし、もしかすると、そういうのも機能不全や壊れた例だが対極にあるものかもしれない。
まあ、自分だって時と場合によっては、殺人くらいやるかもしれないのだ。
ルネは犯罪の報道などを見ながら、こんなふうに考えることもあった。
そういえば、ちゃんねる・ぜろに画期的な情報を書きこむと住人たちから“神”と呼ばれるようになるな、とルネは思った。どうせ名無しか、いいところ固定のハンドルネームでの投稿だから自己満足でしかないのだが、それにけっこう価値を認めている常連も多い。
たぶん、もうスレが起っているだろうとは思ったが、源さんのことを書きこんで“神”になる気は起きなかった。
それに似顔絵の男は、ただ、源さんに似ているだけのことで、彼だという確証があるわけではなかった。似ている人間なんて世の中にいくらでもいる。
ルネは、もう一度、多世界のサイトにアクセスした。『世界最終戦争』というテキスト作品のページのソースを開く。
headの中に<script language="JavaScript" src="0.js">というタグがあった。つまり、JavaScriptは0.jsという外部ファイルに書かれているのだ。ファイル名を0の1文字だけにしているのは気づかれ難くしているのだろうか。そういえば関数もx()と1文字で短く名づけている。
アドレスバーのURLから現在のページのファイル名を消し、そこに0.jsをコピペしてEnterキーを押した。ダウンロードの可否を問うメッセージが出る。デスクトップに0.jsをDLしてエディターで開き、x()という関数が出てくる部分を探した。
function x(){window.open("http://www.……/cgi-bin/secret.cgi");}
これは、別画面を開いてダブルクォーツ内のURLを表示させるスクリプトだ。
拡張子を見るとCGIのページであることがわかる。HTMLで書かれた普通のページとは違って、例えば掲示板のようなインタラクティブな機能をもっていることが想像された。
多世界が変な仕掛けをしていることはないだろうとは思ったが、支障が起きても構わないWin98のマシンでアクセスすると、secret.cgiはチャットルームだった。
入室者はなく、以前の会話はwebmasterがXを入れた発言を並べて押し出している。ログもないようなので、ここでどんな話がされているのかは知るすべがなかった。
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ビールを飲みたくなったが、冷蔵庫の中のは切らしていたのでコンビニまで買いに行った。もっと近くに昔からやっているらしい酒屋があるのだが、ルネは対面販売というのがどうも苦手だったので通り過ぎる。商売人なのだから商品を売りつけて儲けたいのは当然だし理解できるのだが、個人商店では接客する笑顔の裏に、何かもっと別の要素が存在しているように感じられて、つまりクールでないのだ。
コンビニやスーパーの店員はマニュアルにしたがって自分をアンドロイド化しているから、ルネの意識の中に磁気嵐のような煩わしさを生じさせることがない。
ルネはコンビニに入った。ただビールを買って帰るだけというのもつまらないかなと思い、雑誌のコーナーを覗いてみることにする。それほど興味があるわけではないが世の中の流れを確認するため、ファッション誌を数冊、立ち読みした。それから週刊誌を目についたものから手にとって行くと、何冊目かの目次で、こんな記事のタイトルが目に留まった。
◆◆インターネット自殺者たちの横顔◆◆
ネットで示し合わせて自殺した男女について、それぞれの周辺を取材したもので、流し読みして行くとHK(36)というイニシャルについて書かれた部分に、以前ロックバンドに所属しライブハウスで演奏していたとか、インディーズでCDをを出していたなどとあって、どうやらHelterのことらしかった。
ルネは内容のほとんどをちゃんねる・ぜろで見たように感じた。ライターは、あのサイトをよく見ているのかもしれない。
HKの次には、同じ車の中で自殺を図った女性について触れている。
SAさんは24歳。小さな頃から彼女をよく知っている近所の主婦は、こう話している。
「Aちゃんはうちの子より2歳年下で、よく一緒に遊んでたよ。子供の頃、成績は良かったけど、どちらかというと地味で、あまり目立たない方だったんじゃないかな。大学に入ってから、どこかのカルトの信者になって中退し、教団の方で生活してたと聞いたね。その後、家に戻ってM食品に就職したらしいけど」
SAさんのメル友であったJさんは「自殺の報道がった数日前にSAさんからメールがあって、詩のサイトのオフ会に行くと書いてありました。私も時々投稿してるのに誘いがないなと淋しく思ったので記憶に残っています。でも、Aさんはブログやメールに書いてあった限りでは、公務員のご主人や幼稚園の年長さんのお子さんがいる幸せな暮らしをしているってことだったんですけどね」と語った。
HK、SAと行動を共にしたNJという21歳のフリーターについても書かれている。この女性はよく、リスカや自殺に関するサイトにアクセスし、そこに出入りする同士で交流していたようだが、詩のサイトに関することは書かれていなかった。
帰ってからネットでHelterの名前を探す。ちゃんねる・ぜろのログ検索してみると、練炭自殺が報道された時に立てられたスレのソースとして、ニュースサイトの記事がコピペされていた。
調べによると男性は市川市在住の無職広田啓一さん(36)で、女性は埼玉県三
郷市の会社員沢野厚子さん(24)。もうひとりの女性は東京都内の21歳フリー
ターとみられている。3人はインターネットを通じて交流があり、21歳フリータ
ーが昨日、友人に当てて自殺するとのメールを送っていたため、家族が捜索願
を出していた。
それぞれ、イニシャルと名前あるいは年齢が一致している。
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