
HTML殺人事件
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ルネの横で、何やらぶつぶつ呟く声がしばらく続いている。その方向に目をやると、比較的若い感じの男が並べられた詩を眺めていた。
「ふうん、こうやって詩を書いて、通りかかった人に買ってもらうのか。こうゆーの、なかなかいい商売だな。俺もやろうかな」
司 徳馬か、あるいはルネにはなしかけているのだろうか。そこには足を止めて店を覗いている通りすがりもいたが、若い男は誰にともなく喋っている。
「何しろ今、金がないしさ。バイトに行く気がしなくて2・3日休んだら店長からもう来なくていいって電話だよ。それで次のバイト探したけどいいのがないし、もう面倒くて、毎日部屋でネットなんかしてたんだけど、家賃も溜まってたし、とうとうアパートを追出されちゃったよ」
誰かが答えるでも相槌を打つでもなかった。むしろ、彼はまったく無視されているように感じられたが、そんなことは気にせず喋り続けている。精神的に壊れたているのかなとルネは思った。時々、そういう人間を見かけることがある。
「でも、この商売、いいな。俺に向いてるかも。俺も詩を書いてるしさ」
こいつはどうやら、デリカシーを持ち合わせていない人間のようだ。彼が能天気に口の動くまま喋るのを聞いてルネは思った。“俺も詩を書いてるし”と言っても、文字が書けるのと詩が書けるのは違うのだから、考え方がイージーだ。
それに、司 徳馬の目の前でそんなことを露骨に言うのは失礼で、配慮を欠いている。
司 徳馬は表情を変えず、彼に何か答えるでもなく折り畳み椅子に座っていた。ほとんど身動きもしていないようだった。ルネは、自分が勝手なことを言うのも司の行き方を冒涜するような気がしたので、あえて男をたしなめることはしなかった。彼に話しかけたら何らかの関係をもってしまうので、それを避けたい気持ちもあったと思う。
「自分の詩をネットに乗せてるんだぜ。そうだ、おじさんもやったらいいよ。インターネット。あんたの作品が世界中に公開されて、地球の上のあっちこっちの人が見るんだぜ。凄いよ」
自分の言葉に陶酔するように彼は喋った。司 徳馬の詩を、そのままネット上にUPしても、日本語圏の人間にしか理解できないはずだとルネは言いたかったが、司
徳馬は相変わらず無表情で無言だった。
男はそれから急に話題を変えたが、周囲の冷静な態度から何か考え直したというわけではないように思う。
「バイト辞めてからは金もないし部屋でごろごろしてたからさ。PCをつけて、よくネットの詩のサイトに行ってたんだ。Poem
Villageってとこは投稿もできてさ。俺の書いたのは、なかなか評判がいいんだ。多い時は5・6人から感想のカキコがあるな。よかったですとか感動しましたとか…。まあ、そういうのは俺に才能があるからだろうけどな。あんたネットやってる?やってるんなら見てみてよ。sasuraibitoっていうHNだからさ。アルファベットで書くんだよ。半角英数ってやつ。ま、今では本当にヤサグレのさすらい人になっちゃったから、シャレにもならないけどよ」
sasuraibitoは、ずっと、ルネに視線を向けて喋っていた。
あまり関わり合いたくない感じなので、ルネは彼と視線を合わせないようにして、話を聞いているそぶりを見せるのも避けていたが、そのうち、以前、どこかで彼を見かけたことがあるような気がし始めていた。
電車か地下鉄の中だったかもしれない。そこに乗り合わせた乗客で、自分はネット詩のサイトに出入りしている詩人だなどと一緒にいた仲間に話していたのが彼だったような気がするが、それだけのことなのではっきりと記憶しているわけではなかった。だから、雰囲気が似ている人間というだけのことかもしれない。
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