
HTML殺人事件
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オモニは比較的ゆっくりとしたペースでスプーンを自分の口に運び続け、俺は、彼女に気取られないよう、直視せずにそれを観察していた。
やがて俺も意を決した、という程のことではないかもしれないが、アイスクリームのカップを手に取った。カップを掴んだ手に力を入れ、握って側面を押す。上にはみ出して来る半溶解物に口を近づけた。上下の唇をすぼめて挟み取り口腔内に収める。冷たさによる麻痺と舌の上で溶ける感触と味わいの情報が神経繊維を伝達され、脳は瞬時に、それが乳脂肪を充分含んだ高級品であるという計算結果を出した。
俺は、やはり興奮していたのだろう。12月下旬の夜だから身体は冷えた外界を感じていたのにアイスクリームの冷たさが心地よかった。
まあ、これが初めてというわけではないけれど、人を3人も殺せばそれなりにテンションは上がるものだ。
俺はもう一度カップを掌全体で緩やかに押した。液体になりかかったチョコアイスの、表面が天井の光源を力なく反射しているのを、口腔をポンプのように働かせて吸い込んだ。
視界の中に存在しなくても他人の視線を感じるということはあるものだ。俺が無意識に顔を上げると、手を止めて俺の動作を見つめているオモニと目が合った。オモニは底意地の悪そうな微笑を浮かべた。
「習慣というのは一度身につくと、いつまでもついて回るものなのね」
オモニが何を言おうとしているのか俺にはすぐわかったが、俺は黙っていた。
「あなたたちは皆、そんなふうにして、売上をくすねてコンビニあたりで買ったアイスを食べていたのよね」
世界中の飢えていたり病気に苦しんだり障害のある人々を救い、貧しい子供たちに教育を施し平和を維持する活動や再臨のキリストである教祖の教えを広布するためという名目だが、実は教祖があちこちに寄付をして名前を売ったり経営する企業の回転資金と蓄財のため。まあ、とにかく、出家信者たちは健康食品や霊的な効能があるとされるグッズや教団系企業が扱っている半島からの輸入品の訪問販売を日課としていた。それで、その売上の1パーセントにもならない額だが、俺たちは菓子や飲み物などを買うのを黙認されていたのだ。
休息時間にはコンビニやスーパーに向かい、公園などで神に感謝しつつ飲み食いするのが教団生活の中での数少ない楽しみのひとつだった。炎暑の中、重い商品を抱えて歩き回る夏はもちろん、どういうわけか他の季節でも出家信者たちは好んでアイスクリームを食べていたように思う。
それで、その食べ方だが、揃って奇妙な方法をとるのだった。スプーンは使わず、カップの側面を握るようにして中身を上にはみ出させ、それに口をつけて食べるのだ。いつ始まったのかわからないが、俺が加わった頃、もうそれは彼らの一般的な風習になっていた。
それでも俺は初めのうち、買った時に店でくれる使い捨てのスプーンを使って食べていたのだが、それは仲間の信者たちから奇異な目で見られた。それが通例となると、随分と下品な食べ方でも、同調しなければ集団内では異端となる。視線の中には自分たちと同じ行動を取らないものに対してもつ恐怖のようなものも含まれているように俺は思った。陰で、私にはサタンが入っていると噂する者も少なからずいたらしい。
彼らに合わせようというつもりはなかったが、いつしか俺も同じ食べ方をするようになっていた。いや、やはり、折り合いをよくしようという気持ちがあったのかもしれない。
そもそも信者たちはそれぞれ、どことなく下品な雰囲気をもっていて、アイスの食べ方は、その象徴のようにも感じられた。俺だって貧乏人の家に生まれ育ったから、お世辞にもあか抜けているとは言えないのだが、彼らと話したり一緒に行動したりしていると、時折彼らの発するそれが何かの匂いのように空気を伝わって来る。そして、俺を妙に息苦しくさせたのだ。
オモニと向かい合っていると、教団にいた頃の屈折した感情がフラッシュバックする。電気がスパークして小さな火花を放ちつように、そして俺は、その後にきまって漂う青臭い匂いを感じるような気もした。
俺はカップをテーブルの上に置いた。まだ中身は残っている。ひしゃげた形が元に戻らないので茶色の粘液は、それをほぼ満たした状態だった。オモニは俺のカップに一瞬目をやってから言った。
「ミョンスクと食べたアイスは美味しかったかな?」
オモニはまた、意地の悪い表情を浮かべる。教団で一緒だった頃、何度も見たことがある顔つきだ。信仰の純粋な世界を目指す者がなぜ、そんないやらしい表情を浮かべるのだろうと、そのころは疑問に思ったのだが、要するに俺は若くて世界の本質が見えていなかったのだろう。
オモニの言葉で同時に俺の脳裏に浮かんだのは、ある夏の日の休息時、公園でアイスクリームを食べた情景だった。販売に赴く時、よくペアを組んだ女性信者がいて、彼女の教団名はミョンスクといった。
「ミョンスクは、よかった?」
相変わらず皮膚の裏に澱んだものが透けて見えるような表情でオモニは尋ねた。俺は、その意味をすぐに理解したわけではなかったが、しばらくして、俺が彼女と性的な関係をもった意味であることに気づいた。
「まあ、いいわ。神に返すべき金をくすねて、さもしい食欲のために使ったり、蛇の誘惑に負けて女と快楽を貪ったり。人間というのはつくづく罪深いものよね」
そういう事実はなかったのだが、否定して言い争う気もしなかった。
訪問販売の仕事についた当初、売上の一部は小遣いにしてもよいようなことを先輩から言われたのだが、正式に認められているわけではないがという前置きがついていたかもしれない。また、男女の出家信者の間では、そういった関係に陥る者たちが、かなりあったのは確かだろう。いや、俺は、教団がそういうこに対していわば放任状態なのに疑問をもったこともあったのだが、考えてみれば、それは人間をコントロールする巧妙な方法の一部だったのだ。
禁止を侵犯させて罪悪感を植付けられると、むしろ、その贖罪のため、より信仰にのめりこむ方向に追いやられていく。
「ミョンスクと一緒の時も、そういう食べ方だったのよね。思い出す?」
たぶん本部直属で信者の勧誘や教育が主な仕事だったオモニも、そういう習慣については知っていたようだ。いや、むしろ上部の人間は信者の動向の把握に熱心で、工作員のような役目の者が、俺たちの言動を逐一報告していたようだ。
ここで、このページの文章は終わっている。やはり文章部分の画像にはリンクがあって、ルネはクリックした。
続きのページに飛んだ。
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