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HTML殺人事件

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俺がそういう食べ方をしたのはスプーンを渡されなかったからだと俺はオモニに言った。そこにこだわりたい気持ちがあったからだが、かつての習慣から同じ方法を取ったのだとは言えるのかもしれない。
オモニはそんなことを聞き流すように微かに皮肉な笑みを見せた。
「ま、運命の悪戯というやつかしらねえ」
オモニの体臭を含んだ空気が流れて来たのを一瞬感じる。それはどこか饐えたような要素を含んでいる。フェロモンなのかもしれないが、オモニとセックスしたいという気は起きない。
「再会してたわけよね。知らず知らずのうちにってやつで」
オモニの話す意味がよくわからなかった。こうして彼女と俺が会っていることを言っているのだと、最初は思った。
「昔取った杵柄というやつね」
奥歯に物が挟まったような言い方が続く。俺がちょっといらついたのが表情に出たのだろう。オモニはまた皮肉な一瞬の笑みを浮かべた。
「なんだったかな?とにかく記憶にあるフレーズだった。懐かしいっていうか何というか」
「フレーズ?」
「初めはスンナムがネカマをやってるのかと思ったわ。でも、結果的に釣れたのは二人だったってことになったわね」
「結局、彼女があなたの詩のフレーズをパクってたってことのようね。まあ、いい仲だったわけだから、あなたが秘密のノートを見せていて、彼女がそれを覚えていてもおかしくないと、やがて気づいたわ」
秘密のノートと言われて、すぐ思い当たるのは出家信者時代、もっとも大切なものへの思いを断って神に捧げるという誓いを裏切って書き綴り始めた詩のノートだ。そして、それ以外に思い当たるものはない。
「そのうち、懐かしいフレーズを何度か見かけることになったわ。今度は別のハンドルで。それは、たぶんあなたよね。赤土さん」

そこまで聞くと、俺にもだいたいの見当がついた。俺はあのサイトに投稿された作品をすべて見ているわけではなかった。何しろ膨大な量だし、たまに行くネットカフェや、パソコンを持っている友人のダンボールハウスの留守番を頼まれた時くらいではなかなか網羅できるものではない。
ただ、自分が以前書いたのと同じ文章のを見たことはある。その時は単なる偶然かと思っていた。言葉というものは多くの場所で使われているものだし、自分にそれほど特別な表現ができるような才能があるとは思っていなかったからだ。
だが、俺には疑問を感じることがあった。俺はオモニに尋ねた。
「そうすると、彼女はHNを二つ使っていたのか?」
オモニはこれまでとは違う、少しのけぞって声を上げる笑い方をした。そして、「ああ、こういうのもあったわね」と、俺の表情を確かめるように見つめながら暗唱した。

 無意味部(むいみべ)は
 街の底で おもう

 無意味部(むいみべ)の仕事は
 この世界に 無意味を与えること

 ああ
 世界が無化しつくされるのは
 いつのことか

オモニは俺に視線を向けたまま、また、あの底意地の悪い微笑を見せたが、今度はすぐ普通の顔には戻らないで、固定された表情のまま、俺を観察しているようだった。
オモニは三連目のフレーズをもう一度、抑揚をつけずにゆっくりと唱えた。そこは俺がかつてノートに書いた『無化を待ちながら』という詩の一部だ。
「ここよね。あなたのを拝借した部分は」
俺は頷いた。
Poem Villageで見たのは、たしか『からくり』いう作品で、投稿者のHNは“蝙蝠”という記憶があった。やはり、自分のフレーズが使われていたのか。
「他の部分はオモニが書いて投稿…?」
オモニは首を横に振った。
「ある人の書いた詩を覚えててね。そこにスンナムのフレーズを入れたの。でも、うまく収まってるでしょう?元のよりよくなったんじゃないかと思うわ。あたしもちょっとうろ覚えだから原文を正確に書けたかどうかわからないけど、まあ、いいわよね。もう、彼はこの世にいないんだから著作権がどうこうで訴えられることもないし」
「もう、この世にいない?」
「あなたが半島で訓練中、試験で器物を始末したでしょう。その中には、あなたと一緒に行った連中の一人もいたわよね」
それと思われる顔は記憶にあった。下車した駅やワゴン車の中や船の上で、目が合うと彼は俺に話しかけたいような様子を見せていた。それは彼の弱さの顕れのように感じられたが、とにかく俺は彼を敬遠し、視線を合わせないようにしていた。最後に器物として俺の前に現れた時も同じような目つきで俺を見たが、そこには懇願のような色が混じっていた。無言で行うよう命じられていたためもあるが俺は言葉を交わさなかった。
「つまらない文学青年よ。淘汰されたのは当然だわ。ま、あなたが最後までパスしてきたことだって、システムのエラーではあるのだろうけど」
神聖十字軍の信者には、話してみると文学や芸術に関する知識の豊富な者がかなりいたように思う。詩や小説を書いたことのある者なども、わりと多かったのかもしれない。まあ多くは、文学にしろ美術や音楽にしろ感覚がどこか時代遅れだったし、あまり認められることがなかったからカルトに出家したのだろうが、彼らはいちように純真さのように見える奇妙なプライドをもっていた。世間一般の人間とは反りが合わなくて疎外感を味わっていたが、同時にそれが彼らのアイデンティティーになっているような印象を俺は受けた。まあ、人のことは言えないのだが。

「それはそうとして“灯台下暗し”というやつかしら。あれをぽえ村に投稿しても、残念ながら、あなたは反応を見せなかった」
オモニの投稿は俺をおびき出すためだったのか。でも、それだけではないような気がして、俺は次の言葉を待った。
「あたしはあそこであなたのフレーズを見た時、すぐピンと来たんだけどね。それが含まれた詩を書いてたのは二人いて一人は赤土というハンドル」
オモニが俺の顔を覗きこむように見つめて、しばらく間をおいた。
「もう一人がミョンスクよ」

たしかに俺は、Poem Villageに投稿した詩の中で、若い頃書いたもののフレーズをいくつか思い出して使っている。オモニは俺のノートの内容を覚えていたのだろうか。いや、たぶん教団に入ってから書いていた秘密のノートだって、何らかの方法で盗み見ていたのだろう。今から考えればオモニは内部の諜報機関のような役割も担っていたのだろうと思えることがある。
「ま、背教者の恋人同士がネット上で再会してた。これも神の恩寵なのかしら」

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